bodytune

第九とメンタルとアレクサンダー・テクニークと


先週に引き続いて第九ネタです。実は第九に乗ったのは今回が初めて。うちの楽団では第九は任意の参加で希望者のみが乗り、不足のパートは毎年トラをお願いしています。僕はといえば、練習にはこれまでも付き合ったことはあるものの、技術的に弾けないところが多いのと当日仕事が重なったりで今まで本番に出たことはなく、今回が初めての第九乗り番となりました。

ところが、団員で出演したのは僕だけで残りは全員この日のためにお願いしたプロのトラという状況。かつ、みなさんこの時期忙しいためか、当日になって初めて全員がそろうこととなりました。誰が何プルトのどこで弾くといった打合せもなく、でもこちらは初めてだし今日は大船に乗ったつもりで2列目くらいでと思ってたら、軽くご挨拶の後、プロトラのみなさん、迷わず各自持ち場に散って行きます。

あれ?残ってるの、トップしかないじゃん。

あわててコンマスのところに行くと、「あ、もうみんなには場所教えてあるから!(いや、僕はどこで弾けば?)何言ってんのトップトップ!」

というわけで当日朝にいきなりトップをやることになりました。途端に不安な思いにとらわれ、いろいろ悪い方向に考えが転がって行きます。強いて言語化すると、プロの前で失敗して嫌な思いをされるんじゃないかとか、自分より全然弾ける人に譜めくりさせてしまうのが申し訳ないとか、トラの人たちに自分がどう評価されるか一人でぐるぐると考えをめぐらせてしまいました。しかし、残されたイスは一つしかないので今さら後には引けません。こんな時こそ「頭が動けて体全体がついてきて〜僕は演奏会を成功させたい。トラの人たちはそのためのサポートに来てくれている味方なんだ。」とアレクサンダー・テクニーク(AT)のレッスンでよく言っていることを真似して思ってみました。すると、さっきまで自分を品定めに来た怖い存在に思えていたトラの人たちが同じ目標に向けて困難な曲に向かう同士に思え、頼もしいとすら感じてきました。すごいですね、AT。何にでも使えます。ただの自己暗示だろ、といえばそのとおりなのですが、頭、首、脊椎の協調性がドッキングすると「こう思えたらいいな」というものが素直にそのとおりに思えてくるのです。動きの改善だけでなく、体の反応と思考を一致させるのにもとても役に立ちます。これ、同じことを体がこわばったままやろうとしても、多分あんまりうまく行かないと思います。

そして迎えた本番は、大成功。会場からは、ありがと〜!!の声をいただきました。合唱団もオケも聴衆もハコもトラもなく、一つになれたとても幸福感あふれる瞬間でした。トラの人たちも同じ思いで感動の涙にくれた…というのは僕の妄想ですが、そういうことにしておきましょう、話の流れ上。あれから一週間がたちましたが、まだ余韻にひたっております。

さて今回、プロの真横で弾いてみて思ったのはやはり基本技術の確かさ。書道のはね、止め、はらいとか、サッカーの蹴る、走る、止める、みたいなごく単純な動作一つ一つにしっかりとした意図が行き届いているのが、横から伸びてくる弓先の動きから感じられるのです。そして、あの難しい譜面を練習すればいつか弾くことができると思わせてくれます。同じ生身の人間が目の前でやってる姿を見ることの効果は大きいです。何でも難しい難しいと思っていると、やる前からできないことが決まってしまうところがありますから。こちらも本番のテンション上がった状態にあって、見て聞いて感じる情報収集が普段より高いレベルにある時に、実戦投入されたプロと同じ舞台上でやったからこそ得られた何かかも知れません。とてもいいイメージをいただいたので、これからの自分の練習にも活かしていきたいと思います。

もう終わっちゃったのになんですが、思い出としてチラシを貼り付けておきます。落語か大相撲に見えますが、立派に第九ですから。

荒川第九2013