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アレクサンダー・テクニークによる心へのアプローチ


アレクサンダー・テクニークのレッスンは通常、体の動かし方、筋肉や関節の使い方を分析しておかしなところ、より効率的にできそうなところがあれば、それを試していくという形態をとります。これは体の動きを伴うので比較的目に見えるし、レッスンを受けたことによる効果も分かりやすいです(例えば、音楽であれば音が良くなる、運動などであればタイムが上がる、疲れにくくなる、肩こりや腰痛が減るなど)。

ところが、時々、ただお話だけして終わるようなレッスンに遭遇することがあります。先日のボディ・チャンスで、まさにこのようなケースがありました。

Xさんは腰が痛いのを何とかしたいといってやってきました。腰痛自体はボディ・チャンスではよく見るありふれた事例で、これまでも立ち方や股関節などの動きを見てより楽な姿勢の取り方を提案するのを何度も見ているし、今回もそんなふうに進むのかと思っていました。ところが、師匠バジルは一言「仕事が忙し過ぎますよね。これは休むしかありません。」それを言っちゃーおしまいだろ、とつっこみたくなるところ、Xさんも慣れているのでそういう脊髄反射はせず、「いやー、でも自分がやるしか他にしようがない仕事がこれから控えているし、、、」と会話が進み、「Xさんの事業のお手伝いをしたい、Xさんのために役に立ちたいと思っている人は必ずいると思いますよ」といったあたりでだんだんとXさんの様子が変わってきました。

「ところで、今、腰はどうですか?」

「あ、治ってる!?」

これにはちょっとぶったまげました。Xさんが一番驚いていたかも知れません。師匠いわく、考え方が変わったことで体へのディレクションが変わり、これまで感じていた痛みを感じなくなった、ということ。

心身を分けずに捉える考え方は東洋医学では所与のものではあります。僕自身、東洋医学の学校で学んでいますが、実際に心底そのように感じている人はあんまりいないのではないでしょうか。なんでそうなるのか理路整然と説明できないものは、なかなか自信を持ってこうだよ、とは言い切れないからです。痛みという感覚自体、脳がそのように知覚しなければ意識にのぼらないので、もしかしたら認知心理学や生理学を駆使してそのメカニズムを捉えることもできなくはないかも知れませんが、厳密な意味での証明はとても難しいと思います。

今回のタイトルは「アレクサンダー・テクニークによる心へのアプローチ」でしたが、実際にXさんの腰の痛みが氷解してしまったので、本来は「心身」へのアプローチとすべきなのでしょう。F.M.アレクサンダーの著作でも、この心身を分けないものの考え方はくどいくらいに出てきますが、それを実感するレッスンはなかなか出くわしません(別に実感しなければならない理由も義務でもないですが)。今回も良い学びがありました。