bodytune

Archive for November, 2013

前々回の記事で触れた「腕ごと後ろに引っ張る」、これについて今回は考えてみます。

コントラバスを始めたばかりの頃、押弦は背中から、と先生によく言われました。当時は、ネックを裏から親指で押し上げ、それ以外の指で指板の上から弦を押し下げる。つまり、手でネックごと弦を挟むようなやり方をしていました。ヒトの手の使い方として、普通、馴染みがあるのはつかむという動作ですから、押弦にもこれを応用していたのでしょう。もちろん、楽器の演奏にはこれは不向きで、このやり方のために親指が痛くて仕方なく、また、めいいっぱいの握力を使うので速い運指はまず無理。実際、よく指をつりました。

ただ、背中から引っ張ると一つ難点が出てきます。それは、左腕、左手は素早い運指や滑らかなシフティングのために体の前の方で自由に動ける必要があるのに、背中から引っ張ることで腕を後ろに引くかっこうになり、この自由な可動性を損ねてしまうことです。

押弦模式図1

図1(肩甲骨を脊柱方向に引っ張ることで腕が後ろに引かれ、つっぱったようになっている)

ヒントになるひらめきを得たのは、ボディチャンスで鍼灸の脈診の仕方を見てもらっていた時です。脈診とは、両手の中3本の指で相手の両手首を触れて脈を取り体調を診る方法です。鍼灸師はそのために相手に接近し、手を前に出す必要がありますが、指摘されたのは、手を前に出しつつ肩を後ろに引いている、ということでした(図1参照)。「肩」というのはより具体的には肩甲骨とそれに続く上腕骨で、どうやら、肘の関節を伸ばして前腕を前にアプローチしつつ、肩甲骨を脊柱の方向に引っ張っており、それに続く上腕が後ろに引かれていたようです(肩甲骨は肩甲上腕関節で上腕骨とつながっています)。肩甲骨を脊柱方向に引っ張る筋肉として考えられるのは、大・小菱形筋と僧帽筋です。これが働くのを抑制しながら、ただ腕を前にだすと実にシンプルで楽に腕が伸び、手はより自由に動かせます(図2参照)。また、背中の緊張が解けて楽になり、結果、左右の肩甲骨の間が広がります。

押弦模式図2

図2(肩甲骨が脊柱から離れることで腕が前に伸び、動きの自由度が増している)

その後、この経験をもとにコントラバス演奏時の肩甲骨の動きを探求してみました。前述のとおり、押弦は背中からと先生からは言われており、自分ではそれをやっているつもりだったのです。ただ、どうやら今までは大・小菱形筋と僧帽筋を緊張させることにより、肩甲骨ごと引っ張っていたようです。そのせいで腕が後ろに引かれ、自由な可動性を損ねていました。このことを裏書きするように、そういえば週末に楽器の練習をした後の方がその他のウィークデイより肩こりがひどいことに思い至りました(僧帽筋や菱形筋は肩こりを起こす典型的な筋群です)。そこで、今回は「大・小菱形筋と僧帽筋が楽なまま」と意識し続けながら演奏してみたら、狙いが的中。今までにない感覚で腕が前の方で自由に動かせ、肩も楽で、さらに嬉しいことに右腕の役割であるボーイングも楽でかつ自由に運ぶことができました。

250px-Trapezius_Gray409250px-Rhomboidei

(左:僧帽筋 右:大・小菱形筋 ウィキペディアより)

演奏が快適になったことに驚きつつも、僕は大・小菱形筋と僧帽筋以外で腕を後ろに引っ張ることが可能な筋肉とは一体何だろう?と考えてしまいました。肩甲骨を経由せずに上腕骨を直接体幹に引っ張ることが可能な筋肉という意味では、恐らく広背筋ではないかと考えられます。

250px-Latissimus_dorsi_muscle_back

(広背筋 ウィキペディアより)

広背筋は、脊柱の下半分、骨盤上部、肩甲骨から始まって、上腕骨に着く筋肉です。肩甲骨に着く部分もありますが、この場合は、肩甲骨〜上腕骨をつなぐ筋と、脊柱・骨盤上部〜上腕骨をつなぐ筋が並行に走っているだけで、肩甲骨自体をを脊柱方向に引っ張る作用には必ずしもなりません。実際、腕は前の方で自由に動けていい、と思って練習してから背中の左下の部分が筋肉痛になりました。先生に聞いてみても、長時間のステージをこなした後で疲れるのはやはりその辺りだとのこと。方向性として、間違ってはいないようです。


 

374724_506207592760342_1087080580_nDSC00875

 

 

 

 

 

 

 

 

ヨガ・ソレイヤード in bodytuneも、名称を新しくして新規スタートしてから、早1年が経ちました。お陰様で、今年開催したイベントは20回!このたび、皆さんへの感謝を込めて、サポートいただいた会員の方々のために特別イベントを開催することといたしました。

感謝パーティイベント:

開催日: 11月24日(日) 15:00 小竹向原スタジオ(東京都板橋区小茂根1-9-5 サイスタジオ2F コモネC)

11月25日(月) 19:00 番町(麹町)スタジオ(東京都千代田区六番町1-15 番町ホール)

スケジュール:特別ヨガクラスを1時間行った後、カフェでパーティを開催いたします。

参加費用: 1500円(ヨガとパーティへの参加費用、ワンドリンク&フード込み)

お申込み: yogasoleillado@gmail.com 楠または、こちらのフォームまで。

 

 


前回の記事のポイントは、可能な限り指から余計な力を抜くことでした。指が力んでいると何故良くないのでしょう。

一つは、弦ないし指板面に対して、指が馴染みにくくなることがあげられます。力を抜いた状態の時、指には回転する能力があります。自分の意思で回そうとしても無理ですが、もう片方の手で回してあげると意外と可動性があることに気づきます。この動きの余地があることで、押弦する時やシフトする時に指が指板面にしっかりと着いてくれます。対象に対して自分の形を押し付けるのではなく、逆に受け入れて馴染むことで、よりしっかりと密着する。これにより、あまり力を入れていないのにクリアで音程感のある音が得られます。

P1010142 - Copy

指に力を入れた状態で回そうとしてもこの可動性は得られません。なので、力んだ状態で押弦すると、少しでもポイントがずれると音程も音質も残念なことになります。そして、それを修正するためにさらにグリグリずらしたり、もっと強い力で押さえ込もうとしたりして、悪循環にはまります。

指が力むことの悪影響、もう一つは手首が固まってしまうことです。

手首が固まっていると、シフティングで音を上下させる時に指板に沿って円滑に手を動かすことができません。しかし、手首の力を抜いて!と言うのも人によっては効果がないこともあります。何故なら、手首そのものには筋肉がなく、解剖学的に手首に力を入れたり抜いたりするのは不可能だからです。これを言ってしまうと、関節は全てそうだということになるのですが、手首にあるのは指や掌につながる腱です。腱は、丈夫なワイヤーのようなもので、それ自身は収縮することはありません。収縮するのは前腕にある筋肉です。ここの筋肉が収縮することで、腱というワイヤーを引っ張り、さらにその先に着いている指を曲げ伸ばししています。手首が固まるのは、これら指に付いている複数のワイヤーを(実際には手根に付くワイヤーもそれに加わって)前腕にある筋肉が同時に引っ張り、力が拮抗した時に起こります。

試しに握りこぶしを作って手首を手の平の側に曲げると前腕の根元の肘の内側に近いところの筋肉が盛り上がります。逆に指を伸ばして手のひらを反らしてみると、さっきとちょうど反対側の前腕の根元の肘側のところの筋肉が盛り上がります。では手を硬直させてどちらの側にも動かないように固めてみるとどうなるか。両方の筋肉が固くなります。指が力むとこの状態を作りやすいのです。

image418 image414

(『グレイの解剖学』より前腕の筋 左:手の甲側 右:手の平側)

指に入れるのは必要かつ充分な量の力で、しかも拮抗する力はなるべく入れない方がいいと考えられます。つまり、押弦には指を屈曲させる筋肉だけを使い、押さなくてよい指は屈曲を解除するだけにするといった具合です。ただし、速い運指の際には、積極的に指を上げる(指の伸筋)方が良い場合もあるので、実際にはタイミングの問題も相当あるでしょう。

手首の自由な可動性があって、かつ押弦や運指をするのに適切な力の量、適切な筋肉、適切なタイミング、練習していてうまく行かない時はこうしたことを1つ1つチェックすることも役に立つと思います。


コントラバスの左手はけっこう忙しいです。なぜなら人差し指から小指までめいいっぱい使って一音しか(ドからレとか)上がれないし、指板が長いですから。そんなわけで、低い音と高い音を出すのでは、体との関係や力の入る方向性がかなり異なる感覚がします。下の動画はベートーベンの交響曲のオケスタですが、左手は上から下までかなりの距離を飛びまくり、かつ弓と弦の接触が弓先か元弓か、弾いている位置が指板寄りか駒寄りか、などによって体との関係性が刻々と変わる中で巧妙にバランスをとっているのがよく分かります(1分40秒辺りから見ると演奏が始まります)。

今回は左手のシフトに焦点を当てて考えてみます。これまで僕は音を狙うことばかり考えていて、音程が当たらなかった時には手首を無理くり上げ下げしていました。これがシフトの時の癖になってしまい、動かす前から緊張して手首を固めていました。手首を固めると、シフトで手を上下移動する時に弦や指板がうまく手につかず、それを修正するためにさらにまた手首を無理くり動かして、という悪循環にはまります。

では、どうするか?

最初は、ただ腕を体の横にだらっと下げただけの状態からスタートします。この時、コントラバスという楽器を生まれて初めて触るような気持ちで、かつ前腕部分の力は完全に抜いて少しずつ上に上げて行きます。手首はだらっと下がり、まるで幽霊がうらめしや〜とやっている時のあれになりますが、それでいいです。

何とか指板の所まで手を連れてきたら、指には一切力を入れないまま指板上に乗せ、するするとすべらします。上から下へ、また下から上へ。こうすることで、習慣的に培われた指板と手首の関係性をリセットし、新しい関係性で上書きして行きます。次に弦の上に指を置いた状態で上から下、下から上へただすべらします。力はまだ指の力はまだ一切入れないままです。弦との関係性もこれでリセット。

次にいよいよ押弦。もう一度、前腕の力を抜くことを意識して手首の力が完全に抜けたら、緩やかに少しずつ左手の形(いわゆるキツネさんの形?)を作ります。そして、先ほどの要領で弦上に指を置いたら、腕ごと背中からゆっくりと引っ張ります。この段階ではまだ、指、前腕の力は抜いたままです。腕ごと後ろに引っ張られるにつれて、指板に到達するのでそこでストップ。これが、指と弦と指板が出会うためには必要な力とします。ここまで慎重にことを運べば、指が弦を押さえていてかつ手首は適度に力が抜けていて自由に動ける状態を誰でも確かめられると思います。この時の力の入れ具合を一応の理想的なものとして覚えておきます。なに、忘れたら、最初からまたやり直せばいいのです。

以上の状態を維持したまま、腕を上下に動かして指板と弦の上で指をすべらします。これがシフトです。気をつけたいのは、弦のラインを狙って自分で指を動かそうとしないことです。そこのところは既にこれまでのステップで実現されているので、背中から引っ張ることで適度な圧が指から弦と指板に伝わっている状態で、手首の角度や指の形は指板が決める、かつ動かすのはあくまでも腕、と思って上下させてみます。一度やっただけではすぐにまた習慣的なやり方が戻ってしまうので、毎回の練習の際に少しでも時間を取って、楽器と自分の関係性を再確認するこのような練習をします。

これまでのところは、指を指板に乗せる最低限の力で押弦していたので、演奏する上ではこれより大きな力が必要なことは言うまでもありません。押弦に必要な力は音の大きさやピチカート/弓奏なのかでも異なりますが、その都度「必要なだけ」の力を使うようにします。気をつけたいのは、その力が「必要なだけ」かどうかです。必要以上に力を入れても、それは力みや動きの不自由さにつながる可能性が高いため、これまでのプロセスを応用してその時々の演奏に必要な力を確認します。実に遠回りのように聞こえますが、変な癖をつけてその上にさらに難しい技術を構築するよりも、時々、このような練習をして自分の奏法をチェックすることが、オケで取り組んでいる曲の速いところなんかを弾きこなす時に効いてくると思います。


僕がコントラバスを始めたのは30代も後半でかなり大人になってからです。もともとはTubaを吹いていたのでへ音の楽譜は苦になりませんでしたが、初めての弦楽器を見よう見まねでできる気がしなかったので、最初から音大出の先生に習うことにしました。

初心者が弦楽器をやる時、左手と右手で同時に別々のことをやるのにかなり手こずるのではないでしょうか。さらに、コントラバスのような大きな楽器になると、胴体や足もかなりの役割を果たしており、全身を上手に使えないとそもそも実現不可能なテクニックがあるように思います。

僕はかなり不器用な方で、なかなか先生の言うことを自分の体で再現できず、今でも苦労していますが、それでも、今年に入ってから、アレクサンダー・テクニークの学校に行ったり、鍼灸学校で解剖学など専門的に学ぶようになって、だんだんと体の仕組みが分かってきたこともあり、先生の言わんとすることが少しずつ意図的にできるようになってきました。

この道はまだまだこれからも多くの発見があるでしょうし、今、気づいてやっていることが絶対とは限りません。しかし、僕もよく他のコントラバス奏者のサイトを見て演奏上のヒントを得ているように、同じ悩みを抱える方がいればその参考になるかも知れないと思い、現時点での自分の奏法、気をつけていることなどを時々書き綴って行こうと思います。

DSC_2552

(photo by Mariko Evans)